エディット・ピアフ 「小さなすずめ」
Edith Paif "The Little Sparrow"
ナンシー・サンヴァン・ウォーレン
By Nancy Saint-Vigne Warren
彼女はラ・モム・ピアフ~小さなすずめ~と呼ばれていたが、本名はエディット・ガシオンである。1915年にパリで生まれた。幼少期は孤独で、親戚から親戚へと転々とし、生活はたびたび中断され、ほとんどの時間をひとりで過ごし、人気ある歌謡曲の歌詞を記憶することにいつも熱心に没頭していた。
13歳の時彼女は、親戚の家での肩身の狭い生活を離れ、パリの道端で歌う仕事を選択した。その後彼女は、生涯を通じてめったに離れることのなかった異母兄弟のシモンと生活を共にした。パリのあまり裕福でない地区ピゲールの道端で、観光客や住人相手に歌い続け、聞き入る人たちに使い古しの帽子をまわして生活費を得る暮らしを何年もの間続けていた。
エディットはキャバレーの部屋の中に招かれるまでは何年もの間街角で歌い続けていた。屋根の下で歌うのを始めた頃、ある劇場のエージェントが彼女に、名前をエディット・ガシオンからラ・モム・ピアフに変えてはどうかと提案したのであった。このようにしてエディット・ピアフが生まれた。当時たった一着しかもっていなかった簡素な黒いドレスに身にまとい、全身を使って、言葉とフレーズを強調するために両手を上げながら歌った。このスタイルは当時大流行していた華やかなショーガールの趣向とは違っていたので、パリの観客の当初の反応は圧倒的な賛同のようなものではなかった。いくつものキャバレーで年季奉公した後、やっとパリ近郊のより高級なナイトクラブへと移動し、そしてついにアメリカへとやって来た。彼女の評判は増し、熱心なファンも獲得した。
彼女の歌手としてのキャリアの初期の頃、エディットは赤子であった娘マルセルを脊髄膜炎で失った。その死にとても心を痛め、何年もの間、マルセルの誕生日になると嘆き悲しんでいた。彼女はその後子供を作ろうとはしなかった。エディットの歌っていた歌詞は多くの作詞家によるものであるが、そのほとんどをひとりの女性が作曲していた。マルガリータ・マンノー、エディットが「ゲーテ」と呼んでいた人である。ピアフの最も有名な歌「ばら色の人生(ラビアンローズ)」(La Vie en rose)はしかしながらマンノーには「くだらない歌詞」と思われていた。低級な歌詞とみなしていたものに曲をつけるのをマンノーは拒んでいたので、この有名な歌はその考案から、作詞、作曲、演出まで全てをピアフ自身が行った。
公演することに加えてエディットは、彼女の周囲にいる才能ある人達の芸に磨きをかけることに大きな喜びを得ていた。フランス人歌手の幾人かはスタイルと歌い方をピアフに教わっている。ピアフは自分のスタイルを押し付けて質の劣ったコピーを作り出すように強いたのではなく、独自のより良いスタイルをその人自身のために作り出すように促していた。有名な歌手のイブ・モンタンは彼女の第一の弟子である。
エディット・ピアフは1955年から亡くなった1963年までバラ十字会で学んでいた。彼女が逝去した時、ひとりの偉大な芸術家、人生の喜びと悲しみを現実世界の中に歌い上げた人物の喪に、世界中が服した。胸に一本のバラを握りしめた姿で彼女は埋葬された。
(北中南米担当英語圏本部発行「Rosicrucian Digest」誌1999年No.2より)
付記:人生の全ての場面で、私たちは成功することが出来るわけではなく、時には挫折が避けられません。それでも、この人生を心の底から愛すべきであると言えるのではないでしょうか。いつまでも過ぎ去ることのない悪天候はなく、晴れ間にある時には、その幸福を感謝し大切にしたいと思います。エディット・ピアフのシャンソンの歌声からは、彼女がそう望み、その様に生きようとして来た事がひしひしと感じられます。
彼女は40歳の頃にバラ十字会に入会しました。嵐の中を駆け抜けるように生きた彼女にとっては既に晩年でした。この偉大な芸術家の最期を、当会の哲学が支えたことを誇りに思います。
会員になった数ヵ月後に彼女は、「突然に、谷間の景色が現れて」を歌っています。やはり会員であったジャン・ドレジャックによって作曲されたものです。
突然に、谷間の景色が現れて
あなたは世界を駆け巡った。
何も見つけることができなかったと思った。
そして突然、谷間の景色が、
あなたの前に、〈深遠なる平安〉のために現れた。幸福が宙に漂うのにまかせ、
あなたは夢を使い果たした。
そして突然、谷間の景色が現れて、
そこで友の声が聞こえた。雲の下を歩き
闇の中に迷い、
嵐の真っただ中で一人
雨に打たれ
あなたは底知れぬ後悔と
妬みと秘かな悔恨を引きずっていた。
そして突然、谷間の景色が現れ、
人生が始まると知らせる。愛と善で
広大な空が輝く。
全生涯にそして永久に
太陽を。
決して見つけることはないと、
希望を持たずに、
あなたは無限の幸福を夢見ていた。
そして突然に、谷間の景色が現れ、
希望と愛が始まる。
そして突然、谷間の景色が現れ、
希望と愛が生まれた。△ △ △
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。