魔術的意識の探求
バーナム・シャー
魔術的意識とは、人間の意識の魅力ある属性ですが、余りにも多くの場合、通俗的な意味において、オカルトや交感魔術と混同されています。しかし、魔術的意識はこれらの一般的な概念より、ずっと多くのものから成り立っているのです。
今日では、古代の母系家族的文化とケルトの伝承に関心が高まりつつありますが、そのためにバラ十字会員の学徒は、バラ十字会が教えることが、近代の自然宗教で用いられる儀式魔術とどのように違うのかを区別する必要性に直面しています。これは特に、世界中で嫌悪される行為で、「黒魔術」として一般に知られているものに当てはまります。しかし、バラ十字会員として私たちは、「黒魔術」のようなものは存在しないことを知っています。そこにあるのは、交感魔術の誤用だけです。バラ十字会員として、私たちは交感魔術の基本法則と原理を理解しており、そのため私たちの生活から「邪悪な行為」に対する迷信的恐怖を排除してしまう傾向があります。しかし、このことをどうやって他の人たちに説明したらいいのでしょうか。
古代神秘バラ十字会は、恐怖を引き起こす迷信だけでなく邪悪な行為に対しても、常に対抗してきた周知の事実から始めさせてください。一方でバラ十字会は、過去も現在も、全ての偉大な宗教を常に支持してきました。そして私たちは、意識の魔術的で神話的側面の高次元の使用を集団で実践している、古代自然宗教の現代版に対しても同じように寛容な態度をとっています。
本会のある初心者会員たちによれば、彼らの古代自然宗教で教えられる高い倫理的目標は、バラ十字会の啓発的な教義に適合しているようです。しかし長年のバラ十字会会員は知っていることですが、私たちの入門儀式的作業は、その内容、方向、そして教授法において、古代聖なる宗教のものとは異なっています。
まず最初に、バラ十字会は現在も、そしていままでも決して宗教ではありませんでした。バラ十字会内にも、バラ十字の儀式中における儀式魔術、または精神科医、カール・ユングの言葉を借りれば、宗教的な「神秘的感応」を使用していると指摘する人がいるかもしれません。これは、初心者が＜普遍的愛＞の実験中に、あるいはハイエラルキー会員が、同様に家庭内聖所で個人的にバラ十字会の統領（最高役員）に同調している時の同調儀式のことを言っているのでしょう。しかし、儀式的魔術（または「神秘的感応」）それ自体と家庭内聖所、あるいは下部組織でのバラ十字の視覚化術と儀式用具の使用には大きな違いがあるのです。バラ十字の儀式の基本的な目的は、学徒一人一人が動的な沈黙と私たちが呼んでいる霊的な状態を達成するのを援助するためなのです。
装いの術は、＜宇宙意識＞との同調と同様に、ちょうど何千年もの間そうであったように、現在でも私たちの家庭内聖所における学習の深遠な部分になっているのは、バラ十字会員にとっては明白なことです。ほとんどの会員にとって、装いの術の実践は、最初に神話的意識を原型的な主題の形で、外見上は二元性である神秘的（anagogic）イメージとして使用することから始まります。例えば、バラ十字会では、私たちは外部自我として＜内部の主宰＞、＜私たちの心と認識の創造主＞を探し求めますが、それは正に私たち自身のソール意識なのです。この内部への指向は、まず第一に、自然霊や「自然の諸力」、または神々や女神たちを召喚するカルトのリーダーと一緒に、集団で神秘的感応を形成する、現在あるいは過去の儀式魔術の使用方法とは異なっています。
魔術的、そして(あるいは)神話的諸意識状態は、儀式魔術の中で絡み合っていることがよくあります。魔術的な部分と神話的な部分は、＜宇宙意識＞の４つの基本的で固有な構成部分の内の２つです。しかし、バラ十字会では、意識の神話的側面はその原型的な主題と共に、より明白になっています。なぜなら、それは私たちがその上を通って自我の限界を超越し、安全に通過しながら動的な沈黙～クリシュナムルティーの「沈黙の精神」のように、下意識の境界線状態の直ぐ向こう側にある～に到達できる神秘的な「掛け橋」として作用するからです。
動的な沈黙はまた、霊的な意識の透明な状態でもあります。その中で私たちは、＜アカーシック・レコード＞、あるいは＜完全な記憶＞を保有している＜天上の聖所＞または＜グレイト・ホワイト・ロッジ（大白色友愛組織）＞を体験するのです。バラ十字会のイルミナティ課程の学習では、＜アカーシック＞あるいは＜完全な記憶＞を＜大霊の偉大な神殿記録＞として説明しています。そこでは私たちは、神聖な伝説の霊智や経験的な知識を受け取るのです。私たちの形而上学的、及び哲学的関心は、過去と現在の文化の古代からの伝説によって補給されており、さらに偉大な宗教活動等の中での神聖な神々と女神たち、能天使、権天使、座天使から霊感を吹き込まれます。これらは、単なる原型的主題と＜宇宙意識＞の神話的段階であるだけでなく、＜グレイト・ホワイト・ロッジ＞を構成する一部でもあるのです。
スイスの啓発的な哲学者で桂冠詩人のジャン・ゲプザー（1905-1973）は、いずれは２１世紀第一の哲学者にかもしれません。なぜなら、『意識の構造：ジャン・ゲプザーの非凡な才能』の著者であるゲオルク・フォイアーシュタインが、「彼の作品は、ジレンマの深遠で思慮深い解析として大いに認められつつある。このジレンマの中に、私たちは個人的にも集合的にも自分たちを見出しているのである」と述べているからです。現在の時代、及び意識の歴史の両方に関係しているという点で、ゲプザーの著作、『永遠に現在の起源』はバラ十字の学徒にとって興味深い作品です。
ゲプザーのマインドセルという概念
また、ゲプザーの著作と関連があるのは、バラ十字会の宇宙意識の概念が同調のシステムであり、ゲプザー教授のマインド「セル」（精神細胞）の概念に提示されている、意識の古代の、魔術的、神話的、理性的、そして「透明」な段階までをも含み、さらにそれより遥かに広い範囲を含んでいることです。
ゲプザーの言う「古代の」段階は、下意識的本能や情動的な力としてだけでなく、有機化学的な変成や量子電気力学などの背後で作用している宇宙原理の形態で、ピタゴラス派の超図形（metapatterns）も含め、形而上学の四大要素に対応させている、バラ十字会の教義に常に含められていました。一方、ゲプザーの言う「透明な」段階は、私たちがソール意識の真の投射全体の中にいるように、同時に２ヶ所に存在していることを意識している時に予期なくして起こります。
以上のことから、私たちは、バラ十字会はゲプザーのマインド「セル」の概念の中の５つの意識の側面全部を包含していることに注目するのです。この文脈の中では、「マインド（精神的）」という言葉は、「透明であることは、霊的なものが発現する形態である」として、意識的に認識可能な、常に存在する潜在能力のことを言っているのです。ゲプザーの＜マインド＞の概念は、カバラに類似した１０段階の放射であるバラ十字会の＜ヌース＞の概念とは異なります。しかしバラ十字会には、意識の５段階があります。それらは、客観的、主観的、個人的下意識（ソール意識）、非個人的下意識（＜大霊＞、＜キリスト意識＞、＜宇宙意識＞）、そして超意識（＜宇宙的＞、あるいは＜普遍的＞）です。
話を戻しますと、バラ十字会の教義は＜宇宙＞の基礎的な法則と原理を包含しています。そして、それらは、＜宇宙意識＞のあらゆるレベルの階層に適用することができ、ゲプザーの言う意識に関する古代の、魔術的、神話的、理性的側面、そして彼の暗示した「透明性」をも含んでいます。しかしこの時点で、私たちは、この記事の主題である魔術的意識の段階とは何であるのか、そしてどうやってその誤用の恐怖を根絶するのかをさらに探求する必要があります。
魔術的意識
特に意識の魔術的段階に関して、私たち自身の観点と他の人たちの観点とを区別することを、どこから始めたらいいのでしょうか。バラ十字の学徒として、私たちは各人が「歩く疑問符」であることの価値を学んでいます。つまり、教本に提示された法則と原理を説明するために使用されている題材について、すぐに認識できたこと、そしてその後の反応をまず疑問視してみることです。私たちはこれらの真実を霊智、つまり＜自我＞の「経験的知識」を通して検証することを学んでいます。
古代自然宗教の現代の体系で使用されている魔術的、及び神話的意識は、極悪で邪悪に変化する性格の儀式魔術を実践することにより、無垢な人たちに自分たちの外的な意志を押し付けようとするのを唯一の目的としている人々やグループから切り放されています。そしてそうされるべきなのです。
一般的に言って儀式魔術においては、入門者が＜創造主＞、神々や女神たち、精霊などの神聖な存在を「召喚して、外的に発現させて」それらの命令を実行させようとする時にはいつでも、魔術的なものと神話的なの混同が起こるかもしれません。もう一度、この点もバラ十字会の儀式とは異なっています。バラ十字会では、入門者が＜内部の主宰＞からの導きを求める時には、外的な意志は休止させられているのです。
交感魔術とは何か
バラ十字会の教義から、次のような見解を提示します。一般的に言って、人々は外的な経験の世界の中に、因果関係を探そうとする傾向があります。何らかの現象や出来事の原因を認識したと確信している時には、因果関係がそれを理解できる形にするように思えるのです。出来事と物との間に明確な関連性がないと、精神にとっては、あらゆるものが無秩序で混乱しているように思えます。人間はほとんどの行動において、主体的であり、目的を持っているので、発生する全てのものには原因があると考えるのです。
先史時代の先祖たちは、ゲプザー教授が「宇宙的結合状態の魔術的段階」と呼んでいるものを持っていました。今日では、この「魔術的結合状態」は、邪悪な魔術の効力に対する間違った信仰と共に、その極悪な行為のために、誹謗され続けています。近代文明の様々な進歩にもかかわらず、無知な人たちの間での「交感的」あるいは迷信的な魔術の流行は、私たちの知っている紀元前3300～3050年のエジプトのゲルゼー文化期、またはアッシリアの青銅器時代の状況と同じなのです。
現在でも過去と同様に、私たちの演繹的推理の知的能力が、魔術的意識の使用の背後にあるのです。別の言葉で言えば、そのような人たちは「未知」の現象を説明するために、自分が「知っている」と信じていることに基づいて議論します。例えば魔術的意識は、地球に向けられた稲妻の一閃が、火打ち石を使って発生させた火花と関係があると考えるかもしれません。同様にして次には、地中で見つかった火打ち石が、上空の雷や稲妻と「交感」によって関連していると推定されるかもしれないのです。ここで重要な点は、魔術意識の無差別的な活用は、未知の、あるいは 理解できない 出来事の原因を、各自が信じている魔術的な原因に転嫁してしまう傾向があるということです。
魔術的意識に関して、２つの基本的原理があります。 １） 類似あるいは「交感」の法則と、 ２） 接触、あるいは接触伝染の法則です。最初の原理は、類似物は類似物を作り出す、または、結果は原因に似ているということであり、類似の法則と呼ばれます。ヴードゥー教の最も迷信深い部類は、この類似、または「交感魔術」の分類に入ります。そのような迷信的な行為は、ある心理的な要因を含んでいます。つまり、外観の似ているものは関連性を持っているに違いないといった、思考の誤った関連づけです。
第二の基本的な原理は、一度お互いに接触したものは、関係を保持するということであり、接触、あるいは接触伝染の法則と呼ばれます。例えば、呪術師や部族の魔術師は、ある動物の歯と爪でできた首飾りを付けることにより、その動物の性質～獰猛さと強さ～が自分に授けられると信じています。現在、お守りや護符を身につけている人たちは、接触の法則や原始的な接触魔術の原理を永続させていることが多いのです。
今日の啓発された学徒は、さらに深い洞察を探し求めて、自己暗示 と呼ばれている自律神経に対する暗示の微妙な影響力を認めています。それは、吸引の法則（ 「人が心で考える通りのものが自分なのである」等 ）であり、そして実在と現実との重要な区別なのです。別の表現をすると、私たちが客観的に認識するものは、必ずしも実在の真実に基づいていないかもしれないということです。
バラ十字会の元統領、ラルフ・M・ルイス（1904～1987）によれば、「魔術の有害な行為は、いまだに世界中に広く蔓延しているが、自分の望む状態を引き起こそうとする、自然法則の偽りの体系である。それは人間が自然の力を呼び起こして、彼の人間的な動機にもかかわらず命令に従わすように、不可視の力を支配しようとする試みである。」
テレパシーによるメッセージが、その周波数に同調している他の人たちによって無作為に受信され、そしてこのメッセージが自分自身の中から発生したと考えているかもしれないということは事実ですが、それでも学識あるバラ十字の学徒は、各自の主観的な思考形態の性質～特に意図的に熟考して精神の中に保持しているもの～対して完全に責任を取るものです。有害な思考は、必ず送り主に不快なカルマを引きつけるからです。
以上のことから、魔術的意識は人間の知性の属性であり、そういうものとして現在でもまだ、私たちと共にあります。一方で、どんな、そして全ての極悪で邪悪な行為を阻止する最適の方法は、それに関係する法則を理解することです。そこで私たちは、元アメリカ大統領、フランクリン・D・ルーズベルトの「私たちが恐れなければならない唯一のものは、恐怖それ自身である」に同意できるのであり、事実同意しているのです。
敷居の守護者
魔術的意識についての議論を締めくくるにあたり、＜敷居の守護者（良心）＞の役割～私たちの心の中の＜創造主＞の「小さくて微かな声」～を思い出すことは、極めて重要です。例えば、不正な目的、あるいは道徳に反する目的で、ソール意識の投射や＜宇宙意識＞に同調する術を使用することは、宇宙的に不可能です。良心がこれを防止するからです。どのような心霊的術を実行する時でも、自分の心霊的プライバシーと他人のプライバシーは、常に＜敷居の守護者＞である＜良心＞によって保護されているのです
私たちの記事の結論にもう一度戻りますと、スイスの哲学者ジャン・ゲプザーは、その主要な概念の中でバラ十字会の啓発された教義を「反映させて」いますが、彼の言う普遍的「細胞」はバラ十字の１０段階の＜ヌース＞の概念、あるいは、＜カバラ＞の１０個のセフィロトとは同じではありません。しかし、今ここでは立ち入ることができない一致点が ある のです。この主題は、バラ十字公園における今年の夏のR C U I （バラ十字国際大学）の講座で提示される、来るR C U I コース～神秘的な書物M～の一部になります。
この記事を終了させる前に、私は故アーウィン・W．Ｅ．ウォーターマイアーフラターからの、この主題に関係するいくつかの興味深い論評を、読者の皆さんに伝えたいと思います。ウォーターマイアー教授は、長い間バラ十字会の職員を務め、R C U I の教授陣の中では傑出したメンバーでした。彼の一般向けクラスは、常に満員だったのです。そしてウォーターマイアー教授はバラ十字ダイジェストに、何年にもわたって洞察に富む多くの記事を投稿していました
1983年にウォーターマイアーフラターは、ゲプザーの著書、『Ursprung und Gegenwart（原初の起源と現在）』の主要なセクションを、原作のドイツ語から英語に翻訳しました。この著作は、元々は1949年にドイツで出版されましたが、その複雑な言語と概念のために、翻訳は不可能だと考えられてきていました。それでもゲプザーの主要な理論がこの重要な著作の中に盛り込まれているのです。そしてウォーターマイアーの翻訳は、ことにバラ十字会員用になっているので、特にバラ十字会の会員向けに書かれた特別な序文を加えています。（この著作は、現在では入手不可能ですが、いつか出版されることを願っています。）
ウォーターマイアーがゲプザーの著作を翻訳した後で、彼は次のような注釈をしています。『この700ページの書物の中で最も重要なメッセージは、無（AIN）から過去、現在、及び未来の全ての可能性を含んだ、完全な「細胞」が生まれるということです。そしてこの細胞は、進化的な段階、あるいは方向性を含んでいるように見える一連の量子的な変化を伴いながら前進します。しかし、「一個の理性的な」細胞と原初の創造的行為は、同時にそして瞬時に発生するのです（一方が他方より先行することはありません）。したがって、「精神細胞」は、古代の、魔術的、神話的、及び理性的の４つの段階をとります。必然的に次の段階（つまり、第５段階）は、＜一つのもの＞の透明なベールとしての４つの段階を同時的な行為として「知覚する」ことです。
『この同時に「観察する」ことは、クリシュナムルティーの「沈黙の精神」のようなものでしょうが、ただもっと明確に提示されているのです。というのは、どの段階も無視されたり、消し去られたり、抑圧されたりされていないからです。単に意識が、大幅に高められているのです。ゲプザーは、この概念に続けて、物理学からユング、あるいはそれ以上の数多くの実例をあげています。』
将来において、皆さん全員の中に、常に＜宇宙＞が啓示を通して、バラ十字の学徒が＜深遠なる平安＞として知っている動的な沈黙と同時に、人類の遺産も再発見するように導く、永遠なる好奇心を喚起しますように！
雑誌「バラのこころ」 2001秋号より
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に４回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。
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