バラ十字会の歴史
その18 最終章~国際的協調と現在(後編)
クリスチャン・レビッセ
現代
第2次世界大戦の後、新しい統領のラルフ・M・ルイス(Ralph M. Lewis, 1904-1987)は、古代神秘バラ十字会(AMORC:アモールク)の活動を再編した。彼の指揮のもとに、本部(Grand Lodge、後述の「世界のアモールク」の項を参照)とロッジ(Lodge)が世界中のほとんどの国々に設立された。H・スペンサー・ルイスの願いを受けて、彼は会員向けの教本の改訂を進めていった。また同じ時期に、神秘思想と哲学に関する多くの記事や、『内部自我の中の聖所』(The Sanctuary of Self, 1948)、『現代のある神秘家の随筆集』(Essays of a Modern Mystic, 1962)といった注目すべき多数の著作を執筆した。統領職に在任中に、ラルフ・M・ルイスは世界中を旅して、特に各地のバラ十字大会において、アモールクの会員や理事たちと会った。1987年1月12日、ラルフ・M・ルイスは48年間バラ十字に尽くし続けた後に、この世を去った。彼は、洗練されたインスピレーションにあふれる哲学者であり、偉大な人道主義者であった。
ラルフ・M・ルイスの没後、1987年1月23日にギャリー・スチュワートが統領に選出された。残念なことに、彼は手腕を発揮することができず、重大な過ちに手を染めてしまった。そして1990年4月12日に、本部主宰(Grand Master)の総意によって免職された。そして彼の替わりに、当時フランス語圏本部の本部主宰であったクリスチャン・ベルナールが満場一致で選出された。20年以上にわたってフランス語圏本部で奉仕してきた彼は、その経験を本会全体のために捧げることとなった。彼の指揮のもと、アモールクは、さらに国際的な団体になり、教本には再度改訂がなされた。このことは、会員の意識と思考の発達に対応するために、いつでも最新の状態に教材の内容を保つという不可欠な方針に沿って行われたものである。
アモールクでの学習の内容
アモールクで行われている学習の内容に関しては、その詳細に立ち入ることはしないでおこう。というのも、この論説は主としてバラ十字会の歴史に関するものであり、12段階にわたる教本の内容を述べるだけの余裕はないからである。しかし概略だけを述べれば、会に伝承されている知識のうちでも重要な話題が教本で扱われ、そこに含まれているのは、宇宙の起源、時間と空間の本質、物質と生命と意識の法則、人間のソウル(魂)の性質とそのスピリチュアルな発達、死の神秘、死後の生、生まれ変わり、伝統的な象徴記号、数秘術などである。これらのテーマには、実用的な実習が加えられていて、次のような神秘学のテクニックを練習することになる。精神の力で現実を創造する方法、瞑想、祈り、精神の錬金術などである。
アモールクは精神と思想の自由を重視しているので、そこで教えられていることは、固定的な性質のものでも、近視眼的なものでものない。講演や教本では、基礎的な作業として、内省(熟考)と瞑想をすることが会員に勧められる。スピリチュアルな進歩に役立つ会に伝承されてきた知識を伝えることも、講演や教本の目的である。入門した後の進歩の究極の目標は、『バラ十字』(Rose-Croix)の状態に到達することである。重要であり強調しておかなければならないのは、アモールクにおいて、「Rosicrucian」(バラ十字会員)と「Rose-Croix」(バラ十字)は同じ意味ではないということである。前者は会の講義や教材や哲学を学んでいる人のことであり、後者はこの学びを終えて、判断と行動において賢明であるという意味で完成の域に達した人のことを意味する。英知に満ちたこの状態こそが、あらゆるバラ十字会員が、心から望みあこがれているものである。
アモールクから会員に送られてくる文書形式の教材に加えて、口頭で伝えられる性質の教育も会には保持されていて、会に付属しているロッジ等の下部組織に参加すると、それらを受けることが出来る。ロッジ等に参加することは必須ではないが、バラ十字会での学習を補完するのに役立つ。ロッジ等の下部組織は、バラ十字思想の儀式的な側面を重視したものであり、集合教育という枠組みにおいて役割を果たしている。アモールクの入門儀式は、伝統に極めて忠実な形で、各ロッジにおいて会員に提供されていることも注目すべき事柄である。入門儀式は、バラ十字会員の探究の旅を、完成へと導くものであると言うことができる。
20世紀初頭にアモールクは、いまや世界中で知られている『バラ十字国際大学』のスポンサーとなったことも記しておくべきであろう。特定の知識分野の専門家である会員によって主に構成されているこの大学は、次のような分野での研究を支える役割を果たしている。天文学、生態学、古代エジプト学、コンピューター科学、薬学、音楽、心理学、物理学、そして神秘学の伝統の研究である。一般的なルールとしては、大学での調査研究の結果はアモールクの会員にのみ伝えられるが、バラ十字国際大学もまた、一般公開の討論会や講演会を開催していて、様々な書籍も出版している。
世界のアモールク
アモールクは世界中に拡大し、現在およそ20の管轄区域(Jurisdiction)がある。それらを統括する拠点は伝統的に「本部」(Grand Lodge)と呼ばれていて、そのほとんどは、同一の言語を話す全ての国を担当している。すべての本部は、「世界総本部」(英語ではSupreme Grand Lodgeという伝統的名称が与えられている)に属している。アモールク全体の方針決定は、最高評議会(Supreme Council)によってなされていて、この評議会は統領と世界中の本部主宰(Grand Master)全員から構成されている。それぞれの本部主宰の就任期間は5年であり、最高評議会の正式な信任により再任される。この評議会は定期的に招集されていて、会の活動を、各本部のレベルと世界全体のレベルの両方において監督している。それぞれの本部主宰(Grand Master)は同等の投票権を有し、どの本部もすべて同格である。
第四のバラ十字宣言書
『厳格な自主独立の立場を守り、最大の寛容を示す』という方針に沿って、アモールクはあらゆる宗教組織や政治機構から独立している。しかしながら、世界の進歩は会の関心事である。このことから、人類の現状に対する会の見解を表明するために『バラ十字友愛組織の姿勢』(Positio Fraternitatis Rosae Crucis)と題する宣言書が起草された。2001年3月20日付けのこの宣言書は、2001年8月4日にスウェーデンのヨーテボリ市で開催されたアモールク世界大会で、統領クリスチャン・ベルナールによって公表された。この宣言書の発行は、バラ十字思想の歴史における重要なイベントであり、20ヵ国語で同時に行われた。17世紀に出された3つの宣言書は主として知識階級や、政治分野や宗教界のエリートに向けたものであったが、第4のバラ十字宣言書にあたる『姿勢』(Positio)は、広く一般の方に向けて書かれたものである。人間の運命の意味と人類社会の命運について関心を持つ、世界中の人々へ、この宣言書はメッセージを発信している。
序文には、『姿勢』を発行するに至った理由が明確に記されている。「歴史は繰り返し、同じ出来事を定期的に、しかし概してより広大なスケールで演出します。このことから、最初の三冊の〈宣言書〉の発行からほぼ4世紀後の今、世界全体、特にヨーロッパが、あらゆる分野、すなわち政治的、経済的、科学的、技術的、宗教的、道徳的、芸術的分野などで前代未聞の存在の危機に直面していることに気づくことができます。さらに自分たちが生き進化している私たちの惑星が重大な脅威に直面していて、比較的最近の科学である生態学の重要性が高まっています。確かなことに今日の人類はうまくいっていません。このことが理由で現代のバラ十字会は、自体の〈伝統〉と〈理想〉に忠実に、この『姿勢』を通してこの危機を訴えることが賢明であると見なしました。」
第四の宣言書は、第三の千年期の始まりというこの現在において、人類が直面している数々の重大な問題を指摘してはいるが、最後の審判の日や世界の終末が近づいているというような考えを持ち出しているわけでは全くない。そうではなくて、現在の世界がおかれている状況を指摘し、様々な問題と動向に着目している。これらは、バラ十字会の考えによれば、近い将来、この地球を脅(おびや)かすものである。バラ十字思想に沿って考えると、人類が直面している危機的状況は、現代社会が過剰な個人主義と物質主義に支配されていることから起こっている。それゆえに『姿勢』は、人類愛とスピリチュアリティを重視することを第一に訴えている。同時に宣言書は、全ての人々が、個人としても全体としても再生する必要があることを強調している。「この歴史の変わり目において、異なる文化圏において意識に類似の特徴が発生していること、国際的な交流が一般化していること、豊かな成果が文化交流によって生み出されていること、ニュースが世界中に配信されていること、学問の異なった分野間で学際的な運動が成長しつつあることが理由で、人間の再生はかつてよりも可能性が高くなっていると私達は思っています。しかしこの再生は個人と集団との双方で起こるべきであり、これは折衷(せっ ちゅう)主義(訳注:思想や信条の多様性を認め、他の文化や思想の優れた点を積極的に取り入れようとする立場)を支持することと、その当然の帰結である寛容によってのみもたらされると私達は思っています。」
第四のバラ十字宣言書の中で述べられている重要な考えの中でも、特に注目されるのは、全体主義的な政治思想を無条件に非難していることである。バラ十字会員はかつて、そのような政治思想の犠牲になってきたのであり、単一の思想によって確立されている政治システムからは、ブラックリストに入れられてきた。バラ十字会員にとって、最良の統治システムが今でも民主主義であるならば、「この点においては、国家的な事柄を最もうまく運営管理することのできる個人個人を集めた統治機関の発生を促すことを各国家が援助することが理想です」。また、『姿勢』という宣言書全体を通じて見られるのは、人類愛が、バラ十字会員に特に見られる性質であるということを再確認したいという思いである。たとえば、次の文章が挙げられる。「……また、それぞれの人間は、全人類という単一の身体の中のひとつの要素であり細胞であると私達は信じています。この原則により、すべての人間が、生まれた国や住んでいる国家にかかわらず同じ権利を持つべきであり、同じ敬意が払われるべきであり、同じ自由を享受するべきであるという人道主義の観念が私達にはあります。」
別の領域、つまりスピリチュアリティの領域では、アモールクは『姿勢』で、世界の主要宗教の命運について熟考している。そして、普遍的な宗教が人々に受け入れられることによって、古い宗教が消滅する運命にあることにさえ理解を示している。「バラ十字のスピリチュアリティ」と呼ぶのが適切であろうこの普遍的宗教について、第四の宣言書は次のように定義している。「……その基礎となるのは、ひとつには〈創造主/神〉が〈絶対知性〉として存在していて、宇宙とその中にある全てのものを創造してきたという確信であり、もうひとつは、それぞれの人には〈創造主〉から発しているソウル(魂)があるという確信です。さらに、創造されたもの全ての中に、様々な法則を通して〈創造主〉は表現されていて、より偉大な善のためにそれらの法則は学習され、理解され、尊重されなければならないと私達は考えています」。このスピリチュアルな人道主義は理想主義的に感じられるが、これこそがアモールクが声を大にして言っていることであり、プラトンが『国家』においてユートピアの中に理想的な社会の形態と見たことが思い起こされる。こうしたことを考えると、『姿勢』が、あえて『バラ十字的ユートピア』と題された箇条書きによって締めくくられていて、その箇条書きが、「すべての人間の〈創造主/神〉」、「すべての生き物の〈創造主/神〉」の庇護(ひご)を求めた後に書かれていることは、驚くべきことではない。
『バラ十字友愛組織の姿勢』は、17世紀に発行された一連の宣言書の伝統を受け継ぐものである。この宣言書の発行により、時間と空間を超越した絆(きずな)が構成されたとさえ言うことできる。そのようなものとして、この宣言書は、伝承されてきたバラ十字の英知の不可欠な一部分をなし、過去のバラ十字会員と現代のバラ十字会員の間の架け橋となっている。さらに、第四の宣言書が発行されてからは、この宣言書を対象に、神秘学思想を研究する歴史家たちが、そのような趣旨に沿った論評を行っている。そのような論評のうち、特にひとつを挙げると、「それは確実に、バラ十字思想の歴史における傑出した文書であり続けるであろう」とアントワーヌ・フェーブル(Antoine Faivre)は書いている。
結び
このシリーズの締めくくりを述べさせて頂きたい。私たちは、ヘルメス・トリスメギストスやクリスチャン・ローゼンクロイツの足跡をたどっては来たが、このシリーズが、バラ十字会の活動と思想を余すところなく研究し尽くしているのではないことを十分に承知している。そして当初の計画に忠実に、まず何よりも、神秘学思想の歴史の中にバラ十字会の活動と思想を位置づけようと努めてきた。こうして古代エジプトから現代の世界までを旅することによって、西洋の神秘思想が幾世紀にもわたって、どのように発展してきたかを私たちは理解した。また、注目すべきなのは、ほとんどの時代においてエジプトが、太古から伝承されてきた神秘学の知識の、歴史的な、あるいは神話的な中心地であったことであり、その知識は、参入者たちが世代から世代へと手渡していこうと努力してきたものである。
次に、現代のバラ十字会の活動において最も重要な出来事であるアモールクの出現についても論じてきた。その歴史のすべてを扱うことはしなかったが、中でも重要な段階を厳選して示してきた。創設から一世紀近くを経た今も、アモールクはバラ十字思想の炎を燃やし続け、現代世界に適応し、会員個人のスピリチュアルな開花を重視する視点からオカルティズムを放棄して、その知識を伝え続けている。
この研究が示してきたように、何世紀もの間、数多くの人物がバラ十字会の活動と思想を確固たるものにしようと力を尽くしてきた。〈バラ〉と〈十字〉を結婚させようとする者の中には、ソウルの花を守る棘(とげ)に傷つけられるものもいたが、それは、その人が完璧な賢者ではなかったからであり、人間としてのあらゆる長所と欠点を持っていたためである。しかしながら、どの人も、その程度は様々であるが、人類をより高貴な存在にするという役割を果たしてきた。その方法は次のようなものであった。つまり、目にすることのできる世界を超えたところを見るように当時の人たちを勇気づけ、自らの内側に〈聖なるもの〉の存在を見いだすことが出来るようにすることである。そして、そうすることによって、〈バラと十字〉に関して提起された謎、つまり〈人類〉と〈創造された世界〉が存在するのは、なぜなのか、何のためなのかという謎が、人々の心の中に、生き生きと保たれ続けるのである。(完)
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」(No.119)の記事のひとつです。
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