神秘学を科学する 第1部
Scientific Mysticism Part 1
ウィリアム・ハンド
By William Hand
第3章 現実は選択できる
Reality is a Matter of Choice
現実が選択できるということは、実在(actuality)と現実(reality)の違いに関してバラ十字会で教えられている事柄に非常によく似ています。あるものが、実際にはどのようなものであるかを、私たちは決して知ることはできないとバラ十字会では教えられています。なぜならば、それを知覚しようとする時に、私たちはそれに影響を及ぼし、この相互作用の結果が現実であるからです。この相互作用は、量子物理学では測定と呼ばれており、唯一それだけが、測定している対象物と観測者とのつながりです。このことを、以下のように表現することができます。
実在+観測=現実
(Actuaity+Observation=Reality)
もちろん、観測は(広い意味での)意識の為せるわざです。意識は、すぐ後に検討するテーマです。しかし今は、量子力学が成熟した1920年代という10年間に戻ってみることにしましょう。
波動性と粒子性の両論を解決しようとする試みの中で、エルヴィン・シュレーディンガー(Erwin Schrodinger)は、ある方程式を数学的に導き出しました。そしてその解は、水素原子中の電子の量子力学的なふるまいを記述する波動となります。この方程式はまた、エネルギーの数学的な表現形式が知られている他の系にも適用できました。しかし、ヘンドリック・ローレンツ(Hendrik Lorentz)からの異議により、ド・ブロイによって主張されていたような物質波の重ね合わせでは、物質に見られる粒子性について十分な説明ができないことが、すぐに明らかになりました。しかし、1926年にマックス・ボルン(Max Born)は自身の解釈を発表しました。次のことがボルンの画期的前進の内容です。つまり、シュレーディンガー方程式は、ひとたび観測を行って相互作用が起こると、現実になる可能性を表現していると解釈されるべきであるということです。このことは、原子構造や光のようなあらゆるエネルギーのふるまいに、今までとは全く異なる解釈をもたらすので、物理学者にとって、極めて深遠で心を動揺させる類のことでした。シュレーディンガーの“波動”は起こりうる可能性を表していますが、物理的な現象は観測された後、すなわち測定の後、つまり意識による行為の後にだけ起こるのです。
「偉大なデンマーク人」ニールス・ボーア(Niels Bohr)は、量子論における、あらゆる重要人物が出席した1927年のブリュッセルの大会議(ソルベー会議)で、さらに一歩前へと進みました。その時彼は、相補性原理を発表したのです。相補性原理とは、何かが波動と粒子の両方として観測できる場合、この観測は矛盾しているのではなく、互いに補い合うものだということを示しています。言い換えれば、その現象は粒子と波動の両方として同時に存在しています。この考え方によれば、測定前のある原子系の状態を確定することはできないという結論になり、原子系には、いくつかの可能性、つまり、ある確率でいくつかの値をとる傾向だけしかないということになります。この考え方は、「量子力学のコペンハーゲン解釈」として知られるようになり、今日もなお広く認められています。
量子力学的な波動が、二重の性質を表現するというこの原理によって、神秘学という土壌に量子力学を導入することが可能な地点に、私たちはほとんど到達しています。しかしながら、まだ他にも、私たちがまず理解しておかなければならない、驚くべき結論があります。
1927年のこの会議の後、アインシュタインは量子力学に完全には満足していませんでした。ボーアの理論は実験上の証拠に裏付けられていましたが、アインシュタインは、現象の発生の確率ではなく、現象そのものを記述する方法を求めていました。
1935年に、ネイサン・ローゼン(Nathen Rosen)とボリス・ポドルスキー(Boris Podolsky)とともにアインシュタインは、アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスとして知られるようになった、ある実験を提案しました。それは3人の頭文字をとって「EPRパラドックス」と呼ばれています。2つの電子AとBに、スピンが反対方向であり、お互いに相殺しあうという関係があるとします。この2つをお互いに遠ざけます。もしAに時計回りのスピンが観測された場合、直ちにBには反時計回りのスピンがあることになります。同様にBに時計回りのスピンが観測されるなら、Aにはその反対のスピンがなければなりません。なぜなら2つの電子はそのような関係(訳注:量子もつれ状態と呼ばれる)にあるからです。アインシュタインが指摘したのは次のことです、2つの電子をお互いに離れる方向に動かしたとします。たとえば宇宙の両端にまで離すとしましょう。そして、一方の電子のスピンを観測すると、もう一方の電子のスピンがどうなっているかを即座に知ることができます。これはつまり、観測を行った電子から、宇宙を横切って、即座に、反対側に情報が伝達されることになります。言い換えれば、情報は光速より速く移動していることになり、その結果、特殊相対性理論と矛盾することになります。
しかし、ボーアがアインシュタインに指摘したのは、量子力学では、観測者と観測される物を分離するのは許容されていないということです。言い換えれば、2つの電子と観測者は単一の系の一部分であって、その結果、即時の伝達が許容されます。神秘学にとっては必ずしもそうではありませんが、科学にとって、これは驚異的なことでした。アラン・アスペ(Alain Aspect)が1982年にパリで、この効果を実験によって立証したのは、さらに驚くべきことでした! それでは、量子力学は神秘学を学ぶ人たちにとってどんな意味を持つのでしょうか?このことについて、これから調べて行くことにしましょう。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。