バラ十字会

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バラ十字会の歴史

その7 『化学の結婚』(前半)

クリスチャン・レビッセ

 『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』は第三のバラ十字宣言書であると考えられているが、1616年に出版された。これは数多くの錬金術論文の出版者であったストラスブルグのラザラス・ゼッツナ―(Lazarus Zetzner)によって出版された。この著作は初めの二つの宣言書とはかなり異なっている。まず第一に、これは同じように匿名で出版されたが、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが著者であることが知られている。更に、これは錬金術的小説および自叙伝の形で出された点において、これまでのものとは形も異なっている。

16世紀の錬金術

 この時期には、科学は急速に発達していた。しかし、その当時の数多くの本が明らかにしているように、そのような科学の進化は錬金術の活力を堕落させてはいなかった。むしろ、研究者たちの思想を豊かにすることで貢献し、これに触発されたフランク・グレイナー(Frank Greiner)にこう言わせた。「近代世界の発明は、本質的には機械化の成功から起きたものではなく、黄金を作り出したりする錬金術師の沸騰している蒸留器の中にも見出されたのであった。錬金術は、17世紀にその展望を広げた。錬金術は、知識を統一していると主張していて、医学的な適用方法を含み、より大きな霊的な側面を開発していた。それはまた、「アダムの堕落」だけでなく「自然」の堕落をもたらし、悲劇的な宇宙起源論つまり<天地創造>の歴史を深く熟考することをも探求した。このようにして錬金術師は、人間の医者であって、人間を霊的な状態に生まれ変わらせるように再生させるのを助けるだけでなく、錬金術師は「自然の医者」でもあったのだ。聖パウロはこのことについて、「<天地創造>は追放されて受難しており、人間による解放を待っているのである」と指摘した。パラルケスの弟子ゲルハルト・ドルン(Gerhard Dorn)は、この霊的発展の典型的な人物であった。こういった数々の錬金術論文が出版された状況の中で、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』が出てきたのであった。

ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ

 この宣言書の著者、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ(1586-1654)は、神学者たちを多く輩出した著名な家系の出であった。彼の祖父ヤコブ・アンドレーエ(Jakob Andreae)は、ルター主義の歴史上の重要な文献である「調和の原則」(Formula of Concord)の著者の一人であった。ヤコブはこの優れた奉仕の功績が認められ、パラティン伯オットー・ハインリヒ(Count Palatine Otto Heinrich)から盾形紋章の使用を許可された。ヤコブはその紋章に、家名のアンドレーエにちなんで聖アンデレ(St.Andrew)の十字架と四つのバラを配して、一つのバラを紋章に描いているマルティン・ルターに敬意を表して組み立てた。そしてルターの紋章は、次のように描写できる。まず中央には黒い十字架があり、精神に苦行をもたらし、磔にされたキリストは償いへと導くことを思い出させる。この十字架は生命を象徴する赤い心臓の中央に置かれている。後者は喜びと平安の印である白いバラの上におかれている。そして全体は永遠の生命を象徴する黄金の環に取り巻かれている。この紋章は、ルターが高く評価していたクレルボーの聖ベルナール(St.Bernard of Clairvaux)の著作に刺激されたものである可能性がある。実際、聖ベルナールは旧約聖書の雅歌に関する説教において、ソウルと<創造主>との結婚を説明する際に、しばしば花と一体となった十字架のイメージを使用していた。

 ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、子供の頃から錬金術的環境の中で育てられた。チュービンゲン市で牧師をしていた彼の父は、実験室を所有しており、彼の従兄弟のクリストフ・ウェリング(Christophe Welling)もまた、この科学の熱烈な信奉者であった。若きヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、父と同じように神学を追及した。神学者のヨハン・アルント(Johann Arndt)は、この若きアンドレーエを自分の心霊的な息子であると見なして、この若者に多大な影響を与えた。アルントはヴァレンティン・ヴェイゲル(Valentin Weigel)一派の伝統を汲んでおり、この学派は、ライン川沿岸・フランドル地方の神秘学思想とルネサンスのヘルメス主義と、パラケルススの錬金術を統合させようとしていた。ヨハン・ヴァレンティンはまた、パラケルススの医術とナオメトリーを探求していた神学者トバイアス・ヘス(Tobias Hess)の親しい友人でもあった。若きヨハン・アンドレーエは、チュービンゲン市でこの「殿堂を計測する」科学に熱中する傍ら、師であり、保護者でもあった神学者のマティーアス・ハッフェンリッファー(Matthias Hafenrffer)の助手を務め、「エゼキエルの殿堂」の研究のための図解を描いた。この若き学者は同じように霊的体験の中で象徴が果たす仲介する役割についても興味を抱いていた。この点では、彼は師であるヨハン・アルントとその熱中ぶりを分かち合っていた。神秘主義に強い影響を受けたアンドレーエは、敬虔派の先駆者の一人として見なされるようになっていった。

 「化学の結婚」の著者は、劇場が同時代の人々が深刻な物事についてよく考えるように仕向けるための価値ある手段であると考え、彼のいくつの作品は、the commedia dell’arteから影響を受けていた。これはハ―レクインがドイツの舞台に初めて上演されたターボ(Turbo)の場合においては真実である。「化学の結婚」と同じ年に出版されたこの劇は、錬金術について言及している。これは後にゲーテの『ファウスト』のモデルとなった重要な作品である。しかしながら、著者がヘルメス芸術を学んでいるのは一目瞭然であるが、彼の錬金術に対する見方は皮肉的である。概して、神学にせよ科学にせよ、アンドレーエが興味を持ったものは有益な知識であり、無益な思索ではなかった。例えば、アンドレーエとその友人、ジョン・アモス・コメニウス(John Amos Comenius)は、教育学を17世紀に復活させるのを支援した。1614年に、彼はファイヒンゲン市の副牧師に任命された。後に彼はカルフ市で監督者となり、それからシュットガルトの教会会議における説教者、顧問となった。様々な役職を務めた後、アンドレーエはアーデルベルグの大修道院長を最後にその職歴に終止符を打ち、その町で、1654年に生涯を終えた。

 ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、深い感銘を与える一群の著作を残した。まだ17歳になってもいない1602年から1603年にかけて、アンドレーエは著作家としての最初の試みに挑んだ。彼はエステル(Esther)とヒアシンス(Hyacinth)についての喜劇を書き、『化学の結婚』の初稿も書いた。この小説の主人公は、既にクリスチャン・ローゼンクロイツ~この名は1616年の出版の際に追加されたのだとも考えられるが~の名で通っていた。この文献の最初の手稿は喪失してしまっており、我々がそれを知ることは難しい。しかし、確実に言えるのは、この小説の中には薔薇と十字の象徴はほとんど出てこないということである。また、アンドレーエは、1616年の出版の際に、この手稿を改訂したこともわかっている。興味深いことに『化学の結婚』は、Theca gladii spiritus (The Sheath of the Spirit,聖霊の栄光を示すさや)と同じ年に同じ出版社から出されている。この本は28もの節をコンフェシオ・フラテルニタティスから引用していた。しかしクリスチャン・コスモクセ(Christian Cosmoxene)という名は、クリスチャン・ローゼンクロイツの名で代用されており、この著者は初期のバラ十字会の宣言書に提示されていた概念の全てに固執していなかったようだ。しかしここで、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、ファーマ・フラテルニタティスが書かれた年にSocietas christiana(キリスト教修道会)の創設を提案した事を思い出さねばならない。この団体は様々な面で、宣言書の中に形成されている計画の内容とよく似ている。アンドレーエはその生涯を通して、チュービンゲン・サークルのような学びのための団体や、現代も存続している染色者基金組合のような職業組合を創設し続けた。

結婚の物語

 第三のバラ十字宣言書は、先の二つの宣言書とは、かなり異なっている。簡単に言えば、この第三の宣言書は次のような物語なのである。81歳の老人であるクリスチャン・ローゼンクロイツが1459年に7日間にわたって起こった冒険について語るのである。翼のある使者(天使)がやってきて王家の結婚式に召喚されたクリスチャンは、山の斜面にあった隠れ家を後にする。様々な出来事の末、彼は高い山の頂上にたどり着き、三つの門を立て続けに通過する。いったん中に入ると、彼と招待された他の人々は、秤にかけられて試される。そこで十分に徳があると判断されると結婚式に参加することが許される。選ばれたわずかの人々には黄金の羊毛が贈られ、彼らは王家の人々に提示される。

 王家の人々の前につれてこられた後、クリスチャン・ローゼンクロイツは、ある劇が上演される様子を詳述する。この劇の後に宴会が催され、その後で、王家の人々は首が切られた。王族たちの死体が入った棺は、遠方の島へ行く七艘の船に積み込まれる。目的地に着くと、棺は奇妙な七階建ての堂々たる建物、「オリンパスの塔」の中に安置される。

 物語の残りの部分では我々は、招待客たちが七階建ての塔を一階ずつ昇ってゆく不思議な様子を目撃する。それぞれの階で招待客たちは、乙女と老人の指導の下で錬金術的作業に参加する。招待客たちは王たちの皮膚を蒸留する作業を成し遂げ、その時に得られる液体はその後白い卵に変性される。ここから一羽の鳥が孵化し、育てられ、やがては首を切られて灰にされる。その残りかすから、招待客たちは二体の人型を作る。この小人たちは大人の大きさになるまでえさが与えられる。そして最後の作業で彼らに生命の炎が伝えられる。二体の小人は生き返らされた王と王妃に他ならない。その後で直ぐに王と王妃は、招待客たちを「黄金の石の結社」に歓迎し、全員が城に戻る。

 しかしながらクリスチャン・ローゼンクロイツは、城内での最初の日に、軽率にも眠れる美の女神ビーナスが横たわっている霊廟の中に入ってしまうという過ちを犯してしまった。その詮索好きな性質は咎められ、罰として城の守衛をさせられることになる。しかしこの判決は執行されなかったようである。なぜなら、この物語はクリスチャン・ローゼンクロイツが自分の住処に戻ることによって突然終わるからである。著者はこの81歳の隠者の余生が、残りいくばくもないことを読者の解釈に委ねている。この最後の声明は、ファーマ・フラテルニタティスがクリスチャン・ローゼンクロイツは尊ぶべき106歳まで生きたと主張していることと矛盾しているように思われる。更に、この物語の別の諸局面では、それ以前の二つの宣言書の中に提示されている人物とはかなり異なる人物像のクリスチャン・ローゼンクロイツが描かれている。

バロック・オペラ

 ベルナール・ゴルセイ(Bernard Gorceix)が述べているように、アンドレーエ著作の本には17世紀のバロック様式の記載があり、寓話や説話や象徴が卓越した地位を占めている。ゴルセイによると、この小説は歴史的そして文学的著作として意義深いものなのである。実際これは、17世紀にバロック文化が出現したことが最もよく表出されている作品のうちの一つである。素晴らしい物事そして装飾の重要性の趣味が極めて明らかである。結婚式が行われる城は壮麗なもので、庭園もその時代の自動装置がしつらえてある泉の趣味を繁栄している。それらは物語の中の様々な場面を彩る背景となっている。最も忘れがたいのは、招待客たちの一人一人が、美徳を計る天秤に自らをかける審判の場面である。作者はまた、我々にベールをかぶった乙女たちの奇妙な行進を目撃させる。彼女らは、抑制されていないキューピッドが放ったいくつもの矢によってもほとんど混乱させられていない。そしてさらに我々は、ユニコーンや獅子やグリフィンや不死鳥といった伝説上の動物に遭遇するのである。

 様々な登場人物たちの衣装も豪華絢爛であり、物語が進んでいく間に、錬金術変成の進行の場面に従って衣装の色を黒から白、そして赤へと変える者もいる。様々な饗宴とごちそうが不可視の従者たちによって供され、物語が強調されている。しばしば不可視の演奏者によって奏でられる音楽が、物語に花を添えている。場面が変わる時や人物の登場には、トランペットとケトルドラムが鳴らされる。この文献には至る所に詩が挿入されており、本筋は一つの小劇によって中断されている。

 この錬金術論文の中には、決してユーモアが欠落していることはない。それはしばしば思いがけない時に表出されている。例えば審判の場面(三日目)でも数々の露骨な冗談が発せられている。変性が実質的には達成された瞬間(六日目)、作業の監督者は招待客たちをだまして、彼らがこの作業の最終段階に招待されることはないと信じさせる。この冗談の効果を見て、この意地の悪い監督者は大笑いし、「腹の皮がよじれそうになる」。この物語には隠された碑文や、ライプニッツ(Leibniz)が解読しようとした暗号が含まれている。見ての通り、我々は、ファーマ・フラテルニタティスやコンフェシオ・フラテルニタティスとは全く異なる様式の絢蘭豪華な文学作品を目の当たりにしているのである。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」(No.93)の記事のひとつです。

 

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