バラ十字会

非宗教・非営利団体であるバラ十字会は、
全世界の87ヵ国に拠点を有し、
23ヵ国語で通信講座の教材をご提供しています。
日本本部公式サイト

バラ十字会の歴史

その7 『化学の結婚』(後半)

クリスチャン・レビッセ

内的錬金術

 『化学の結婚』が出版された翌年の1617年に、錬金術師ラティチウス・プロトフェル(Ratichius Brotoffer)は、Elucidarius Majorを出版した。この本で彼は、『化学の結婚』の七日間と、錬金術的作業の各段階との相関性を立証しようと試みた。しかしながら彼は、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエの本は不明瞭であることを認めた。更にもっと近年になって、リチャード・キーナスト(Richard Kienast,1926年)やウィル・エリック・プ―チカルト(Will-Erich Peuchkert,1928年)などの他の著作家たちがこの本の秘密を解読しようと最善を尽くした。さらにもっと近年に、とりわけベルナール・ゴルセイ(Bernard Gorceix)、サージ・フティン(Serge Hutin)、ローランド・エディゴフェル(Roland Edigoffer)がこの著作を賢明に分析している。「錬金術的結婚」の本は錬金術資料の集大成とは、ほとんど似ても似つかない。そしてそれは技術的な論文なのでは全くなく、実験室の操作手順を述べる目的のものでもないのである。またちなみにその物語は、「賢者の石」を発展させることにかかわっているのではなく、一組の小人を作り出すことにかかわっていたことに留意すべきなのだ。その物語の中で語られている七日間に関しては、錬金術的象徴が中心とされているのは主として第四日目の始まりである。

 ポール・アーノルドは、『化学の結婚』は、「赤い十字の騎士」について書かれてあるエドマンド・スペンサー(Edumund Spencer)著の『妖精の女王』(The Faerie Queene,1594)の第十章の単なる翻案に過ぎないことを示そうと試みた。しかし彼の反論には依然として納得できない。ローランド・エディゴフェルは、アンドレーエの物語はゲルハルト・ドルン(Gerhatd Dorn)の著作Clavis totius philosophiae chimisticaeに著しく類似していることを示した。このドルンの本は1567年に出版され、それから1602年にラザラス・ゼッツナーが出版したテアトラム・ケミカルの第一巻の中に入れられた。この本でドルンは、錬金術師によって物質に遂行される浄化は、人自身の浄化にも行われるべきであることを示している。彼はその本の中で、人間の異なった部分である肉体とソウルとスピリットを象徴する三つの登場人物たちを挙げている。この三つが岐路で会い、それぞれの道が、山頂に建つ三つの異なる城へと続いているのを定めるようにしている。一つ目の城は水晶でできており、二つめは銀、三つめはダイヤモンドでできている。幾多の冒険と、<愛の泉>での浄化を経て、登場人物たちは人間存在の内的な再生の過程とされる七つの段階を達成する。この物語と『化学の結婚』の基本的構想(プロット)には、著しい類似がみられる。

霊的結婚

 ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、その本の題辞に「神秘は暴露された時に品格をおとしめられ、冒涜された時にその力を失う」と指摘している。実際、入門儀式形式の神秘主義は、それが知性のみで受け取られた時、その美徳は失われるのである。そのような状況の下では、ここで、我々の関心をひきつけている著作から美徳を剥ぎ取ることなくして分析するには、どうすればよいのだろうか? 確かに、我々は、全ての秘密を明らかにできると主張してはいないが、アンドレーエの入門儀式的小説に提示されている三つの重要な主題:結婚と、啓示の山と、作業の七つの段階は強調しておく必要があるように思われる。

 聖なる結婚のヒエロガミー(hierogamy)は、古代の諸神秘学の中に重要な位置を占めている。キリスト教においては、クレアボーの聖ベルナール(1090-1153)が、『歌の歌』(Song of songs)への注釈の中にこの主題について詳しく述べていた。聖ベルナールはその論文『神の愛において』(On the Love of God)の中で、最終段階が霊的な結婚である高次の領域へのソウルの旅について述べた。この象徴的体系は、Rheno-Flemish神秘学派、特にべグイン修道会と、The Adornment of the Spiritual Marriage,1335の著者であるヤン・ヴァン・ルースブックによって、さらにより詳細に開発された。他の数多くの著作家たちの中でもヴァレンティン・ウェイゲルなどの著述では、霊的結婚の主題が再生と生まれ変わりに関連づけるようにされている。後者の中では錬金術的象徴主義は、キリスト教の象徴主義に加えられている。

 王の結婚は、概して錬金術の中で重要な地位を占めており、そして心理学者のカール・ユングは、人間の個性化の過程の段階を説明するのにそれが最適であることを示した。王と女王の結婚は、人間存在の二つの極性、アニムスとアニマの結合を表しており、自我の発見へと導く。ユングは数多くの著書において自らの研究を公表したが、最も代表的なものは、『心理学と錬金術』(Psychology and Alchemy,1944)である。しかしながらユングの調査研究は、Mysterium Coniunctionisの中のAn Inquiry into the Separation and Synthesis of Psychic Opposites in Alchemy,1955-56で最大の発展を遂げたとかんがえられている。この論文では、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚」が彼の思索の鍵的要素となっているのである。

 表題が示唆するのとは反対に、アンドレーエの物語は結婚については語っていない。結婚式はその小説の中では説明されず、むしろその物語の筋は王と女王の復活を中心に展開するのである。聖ベルナールや過去の時代の神秘家たちからすれば、それは人間存在の結婚のことであり、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが本の中で言及している再生として理解されているのである。

ソウルの城

 「結婚」が行われる場所は、山の頂上に設けられている。伝統的な象徴学では、この場所は大地と天地が触れる場所であり、神々の住居であり、そして啓示の居所である。それについては、マリー・マドレーヌ・ダヴィ(Marie-Madeleine Davy)が著書La montagne et sa symbolique の中でよく実証しており、ある人が山に登ることを決意した時には彼は、自己の探求に着手し、<絶対>にむけての上昇に出発するのである。クリスチャン・ローゼンクロイツに届けられた招待状には、彼は、三つの寺院が建っている山の頂上に登らなくてはならないと書かれている。しかしながら、その物語の次の挿話では、寺院ではなく城について言及されている。

 クリスチャン・ローゼンクロイツは二つの門を通過して、偉大なる変容を起こすための準備がされている城に到着する。それから島にある塔の中の三番目の場所で<偉大な仕事>が成し遂げられるのである。ここで我々は、マイスター・エックハルト(Meister Eckhart 1260-1328)とアビラの聖テレサ(St.Theresa of Avila,1515-1582)が述べている<ソウルの城>の主題をここに見出すのである。彼らにとっては、ソウルの探求は城の征服としてよく提示されている。錬金術の諸文献は、山の上の城について描写するのにこれらの二つの要素を結合させている。我々は先に、ゲルハルト・ドルンが高い山の上の三つの城について述べていたことに注目した。山、城、寺院あるいは塔・・、我々は物語の中に、旅と上昇の概念を思い起こさせるあらゆる象徴的な要素を見出すのである。

 とはいえ、高い山の頂上にある寺院や城は、預言者エゼキエルがビジョンで観たと語っていた到来する神殿を思い起こさせることから、終末論的な側面も持つ。神殿とエルサレムの町が破壊された後、ユダヤ人たちはバビロンへと追放された。エゼキエルが未来の寺院のビジョンを預言したのは、その時であった。エゼキエルはユダヤ人の追放と人間がエデンの園から追放されたことを対応させたのであった。この寺院の破壊は、創造主を<天地創造>から撤退させたのであった。それ以来<創造主>は、人間が奉仕を捧げることのできる唯一の<場>となっているのである。

 しかしながらエゼキエルは、第三の新たな寺院の建造を発表したが、それは<天地創造>の復活と同時になった。預言者はこれについて、<高い山>の上に建てられていると描写した。この<寺院>の原型は以前は天上の世界に存在していたのだと預言者は言い放った。このビジョンは、エッセネ派に多大な影響を与え、全ての啓示文学の源となった。我々はここで、サイモン・ステュディオンの『ナオメトリア』の中でエゼキエルの寺院が重要視されていたことを思い出す。そして、前にも述べたように、我々は、ヨハン・ワレンティン・アンドレーエもまたマティーアス・ハッフェンリッファーとともにこの主題について作業をする機会を得ていたことも知っている。さらには、ローランド・エディゴルフェルが示したように『化学の結婚』は、多くの終末論的な側面を含んでいるのである。我々はこの後すぐ、ロバート・フラッドの終末論的寺院の着想に出会うことになるのは、驚くべきことである。彼にとって、寺院の建てられている山とは、入門儀式のことに他ならないのである。

七つの段階

 『化学の結婚』では、7という数字が基本的な役割を担っている。その筋は7日間にわたって展開され、7人の乙女、7つの鍾、7つの小舟について述べられている。そして最後の変容が起こるのは、七階建ての塔の中で祭られているアタノール(athanor)の中心においてである。これはいつもそうだとは限らないが、錬金術師は一般的に<偉大な仕事>を入念に詳述する過程を7つに分けている。

 ゲルハルト・ドルンは、その作業の7つの段階について語っている。ここで、我々は錬金術特有のもではない一つの根本的な主題に直面するのである。イオアン・P・コウリアーノ教授(Prof. Ioan P. Couliano)が示すように、ソウルの上昇の過程は7つの段階からなると言う理論は、多くの伝承の中で見ることが出来る。彼の研究が示すところによれば、ギリシアの伝承でダンテ、マルシリオ・フィチーノ、ピコ・デ・ラ・ミランドラの中にも見出されるものによれば、こうしたエクスタシーへの上昇は、7つの惑星的な領域を通して達成されているのである。コウリアーノ教授はまた、バビロニアまで遡る伝承で、後にユダヤ教およびユダヤ・キリスト教の啓示文学、そしてイスラーム教にも受け継がれた別の形の上昇についても記述した。それは諸惑星を参照することなくして、霊的な法悦への七つの段階についても語っているのである。

 この要素はまた、ヘルメス思想にも見ることが出来る。ポエマンドロス(Poemandres)は、『錬金術大全』の最初の論文で、宇宙の起源とアダムの堕落に触れた後に、諸領域の枠組を通過してゆくソウルの上昇の7つの段階について語っている。それは、肉体が崩壊した後でソウルが<天上の父>へと上昇する前に自我から幻想と欠陥を除去する為に通過しなくてはならない7つの領域について説明している。ヘルメス学の梗概を備えている第10番目の論文では、この<創造主>へ向かっての上昇を「オリンポスへ向かっての上昇」であると定義して再考慮しているという興味深い事実を記しておこう。『化学の結婚』の中で、7つの錬金術的段階が達成される塔は、<オリュンポスの塔>といかにもふさわしい名で呼ばれているということは、我々を感動させはしないだろうか?

 この7つの概念はまた、キリスト伝承の中にも見られ、特にヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが高く評価していた聖ベルナールに関しては顕著である。『化学の結婚』において第一日目で物語られる夢は、その主題を聖霊降誕祭後の第五日曜日に行われた聖ベルナールの説教から取っている。この夢の中で、クリスチャン・ローゼンクロイツは、他の仲間と共に塔の中に閉じ込められている。更には、<オリュンポスの塔>(第六日目)の中の階を次々と上昇していく度に受け取る道具・・・紐や梯子、翼などは、聖ベルナールの象徴主義か取られている。我々はこの内的人生の7つの段階への参照を、アンドレーエが賞賛する二人の人物に見出すのである。一人はサルツウェデル(Salzwedel)の牧師、ステファン・プレートリウス(Stephan Praetorius)で、「justificatio(人間が神の信仰によって善とされること)、santificatio(聖別)、contemplatio(瞑想)、applicatio(神との連結)、devotio(献身・誓約)、continentia(節制・自制)、beneficienta(恩恵を与える)」を説いている。もう一人は「新敬虔派」の主唱者フィリッペ・ニコライ(Philip Nicolai,1556-1608)で、神秘的結婚について語る時にソウルの再生の七つの段階について述べている。(『永遠の生命の鏡』The Mirror of the Joys of Eternal Life,1599)

黄金の石の騎士

 『化学の結婚』の第七日目の終わりにクリスチャン・ローゼンクロイツは、「黄金の石の騎士」に聖別される。この称号によって彼は、無知と貧困と病気を超越する力を与えられる。騎士たちはそれぞれ、<神への会>と神の僕である<自然>に身を捧げる誓約を立てる。要するに、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが指摘するように、「芸術は<自然>に奉仕する」ということであり、錬金術師は、彼自身の復活と同様に<自然>の復活にも関係しているのである。ある記録には、クリスチャン・ローゼンクロイツは次の言葉を刻印したとある。「最も崇高な知識は、我々は何も知らないということである。」この文言は「学んでいる無知」とのニコラウス・クザーヌス(Nicholas of Cusa,1401-1464)の説教を参照している。後者は、プロクロスやアレオバゴスの裁判官ディオニュソスやエックハルトの伝統を引いており、合理的論理に対抗しているのである。「学んでいる無知」とは、よく一般に考えられるような知識を拒否することでなく、世界は無限であり、完全な知識の対照にはなりえないということを再度学ぶことなのである。ニコラウス・クザーヌスは、グノーシス思想、つまり啓示から得る叡智を唱道し、相反する対照物の同時発生を理解することによって、見える物の世界を越えることができるとしたのである。

 要約すれば、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』は、人間個人のソウルとの結婚へ至る道を探求する主題を扱った入門儀式的物語なのである。このソウルの上昇は、人間と<自然>の両方を含む過程の一部分なのである。この本を読むとき、我々は著者の博学ぶりに裏づけされた豊かな言語能力に衝撃を受ける。実際、参照された神話学、文学、神学、秘伝哲学の全てを指摘するには、一冊の立派な本を必要とするだろう。この記事で我々は、この驚くべき物語の簡単な梗概を提示したに過ぎない。我々の主たる目的は、この物語の多種多様な意味を説明するよりもむしろ、あなたがバラ十字伝承の根本となっていて、ヨーロッパ文学史上に卓越した位置を占める物語を読みたくなるようにすることなのである。

結婚式の七日間

第1日目 ―― 出発の準備:天界からの招待;塔の囚人たち;C・ローゼンクロイツが結婚式のために旅立つ。
第2日目 ―― 城への旅:四本の道の交差点;城への到着;三つの関門を通過;城での宴会;夢。
第3日目 ―― 審判:ふさわしくない客たちが判決を受ける;選ばれた者たちへの黄金の羊毛の贈呈;判決の執行;城への訪問;秤の儀式。
第4日目 ―― 血の結婚式:ヘルメスの噴水;2枚目の黄金の羊毛の贈呈;六人の王族への紹介;劇の上演;王族たちの処刑;棺を載せた7つの船の船出。
第5日目 ―― 航海:ビーナスの霊廟;王族たちの偽りの埋葬;航海;島への到着;七階建ての塔;実験室。
第6日目 ―― 復活の7つの段階:くじ引き;噴水と大釜の周りでの儀式;吊り下げられた球体;白い卵;鳥の孵化;鳥の斬首と火葬;円形の炉;灰から始めて二つの小立像の作成;生命の炎;王と女王の目覚め。
第7日目 ―― クリスチャン・ローゼンクロイツの帰還;黄金の石の騎士;船での帰還;クリスチャン・ローゼンクロイツに課された罰;赦免後の帰宅。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」(No.94)の記事のひとつです。

 

横罫線

もしあなたが、宗教とは別のところに、
人生の根本的な疑問に対する答え、重要な選択や判断を誤らずに行なう方法、心と体の癒し、宇宙意識に達する道をお探しであれば、下記のキャンペーンにお申し込みください

バラ十字会の神秘学通信講座「人生を支配する」の1ヵ月分の教材と、季刊雑誌「バラのこころ」を無料でお届けさせていただきます。

創立40周年記念キャンペーンを開催中。バラ十字会の神秘学通信講座「人生を支配する」を1ヵ月間無料体験できます