ピタゴラス(ピュタゴラス)は授業を行う時は、
「ベーラ」(vela:英語の「ベール」の語源)と
呼ばれるカーテンの背後の席に座った。
聴講者たちは、彼の姿を見ることを許されなかった。
マスターの姿によって、あまりにも気がそらされ、
彼の言葉には、ほとんど注意が払われなくなると
考えられたからである。
(サンツィオ・ラファエロ(1483-1520)作 『アテネの学堂』の一部)
ピタゴラスは紀元前580年にエーゲ海のサモス島で生まれた神秘家(mystic)、
つまり宇宙と人間の心の深奥に潜んでいる謎を解き明かすことに
生涯をかけた人のひとりでした。
デルファイ神殿のアポロ神の巫女(ピュティア)は、
彼の母が「美しさと賢明さで他のすべての人間をしのぐ子供を産むであろう、
その子供は、この世のあらゆる分野で、人類に最も役立つ人となるであろう」
という予言をしたと言われています。
ピタゴラスという名前は、
「ピュティアのように話すこと」を意味しています。
彼はエジプトに旅をして、そこで22年間学んだ後に、
現在のイタリアにあるクロトンという町で学校(ピタゴラス学派)を開きました。
この学校には数千人の研究者が集まっていたと言います。
「宇宙」(cosmos:規則正しい全体)という言葉を作ったのも、
「哲学者」(philosopher:知を愛する人)という言葉を作ったのも
彼だと言われています。
当時は、哲学、数学、医学、物理学、倫理学、政治学の間には
明確な区別がなく、彼はそのすべての天才であったと言われています。
ピタゴラスのテトラクテュス
彼は宇宙が数からできていると考えました。
そして、特にその中でも1,2,3,4が重要な数であると考え、
それを「テトラクテュス」(テトラクティス)と呼びました。
(tetraktys:ギリシャ語の元々の意味は「4つであること」)
また、この4つの数からなる三角形の図形を作り、
テトラクテュスの象徴としました。
ピタゴラスと、その学派の人々は、
テトラクテュスを、自然界の源であり、
神のように神聖なものであると考えていました。
誓いを立てるときには、テトラクテュスに向けて行ったと言われています。
ラファエロ作の絵画「アテネの学堂」で、
ピタゴラスの足下に置かれている書字板には、
テトラクテュスから全音階(オクターブが7音からなる音階)が
構成される原理が図示されています。
ピタゴラスは、自身の作った音楽によって、
体と魂の両方に影響する様々な病気を、軽くしたり、
完全に癒したりすることができたと言われています。
またピタゴラスは、
テトラクテュスを構成する数をすべて足して得られる数、
10のことを完全な数だと考え、
人間の魂の象徴であるとしました。
(和語でも人間は「ひと」であり、その語源は
「ひ」(ひとつ)と「と」(とお)の合成であるという説があります。)